東北大学
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学際科学フロンティア研究所佐藤伸一研究室(国際卓越PI)発 革新的タンパク質修飾剤の実用化

2025.08.04

学際科学フロンティア研究所の佐藤伸一准教授(国際卓越PI)らにより開発されたタンパク質修飾剤 「MAUra-Azide」 が試薬として販売されました。発展途上とされてきたタンパク質化学修飾分野の研究推進および産業技術の発展を大幅に加速することが期待されます。
 
タンパク質化学修飾技術の重要性と現状の課題
タンパク質は20種類のアミノ酸からなる生体分子で、抗体などのバイオ医薬品の主成分です。タンパク質を化学的に修飾する技術は、ADC(抗体薬物複合体:がん細胞を狙い撃ちする次世代医薬品)開発の中核技術であり、医療材料開発や生体内タンパク質の解析にも不可欠です。
しかし、現在の技術による選択的かつ高効率な化学修飾が可能なアミノ酸は、リジン残基とシステイン残基(20種類中2種類のアミノ酸)に限られており、残り18種類のアミノ酸の修飾法は発展途上とされてきました。
 

MAUra-Azideの革新的特徴
佐藤准教授らは、ラジカル種や一重項酸素種(高い反応性を持つ化学種)を活用することで、従来困難とされてきたアミノ酸残基の修飾を実現するMAUra-Azideの開発に成功しました。この化合物は以下の2つの特徴を持ちます:
1. チロシン残基の選択的修飾 一電子酸化条件下でラジカル化し、チロシン残基を選択的に修飾します。
2. ヒスチジン残基の選択的修飾 一重項酸素発生条件下で、酸化されたヒスチジン残基を選択的に修飾します。
また、azide基(アジド基)はclick反応(2022年ノーベル化学賞の対象となった効率的な化学結合反応)の足掛かりとなる構造として知られており、蛍光性や精製タグなど、任意の機能を導入することが可能です。タンパク質修飾に寄与する「MAUra」構造に「アジド基」を導入した本化合物の活用により、タンパク質に様々な機能を導入できます。
 
MAUra-Azideの実用化による波及効果
MAUra-Azideの実用化により、チロシン・ヒスチジン残基修飾技術は、世界中の研究者が容易に利用可能な技術となります。アミノ酸修飾戦略の広範化により、ADCなどの次世代バイオ医薬品や医療材料開発における設計自由度が大幅に向上します。また、高い選択性を備えた修飾技術は、ケミカルバイオロジー分野に有用な新たな手法を提示しています。バイオ医薬品、診断技術、バイオマテリアル分野での革新的応用が期待され、特に精密医療の発展において、重要な技術基盤となることが予想されます。MAUra-Azideを活用した世界中の研究により、タンパク質工学の新時代を築く重要技術の創出が期待されます。
 
本記事に関する参考資料
製品ホームページ:
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/M3978
 
酵素を使った温和な反応条件によるチロシン残基修飾
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2024/cc/d4cc03802a
 
容易に調整できるラジカル種を使ったチロシン残基修飾
https://www.tetrahedron-chem.com/article/S2666-951X(24)00050-0/fulltext
 
チロシン残基を狙った部位特異的抗体修飾 と 蛍光免疫センサーの開発
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.bioconjchem.0c00120
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2021/cc/d1cc03231c
 
光増感剤を使ったヒスチジン残基修飾
https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/jacs.1c01626
 
反応条件の選択によるチロシン/ヒスチジン残基の選択性制御
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscatal.2c05946
https://www.mdpi.com/1422-0067/23/19/11622
 
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