東北大学
学際科学フロンティア研究所

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「スピン半導体」の動作速度の限界を超える新発見 ~反強磁性体の従来磁石材料に対する工学的優位性を世界で初めて実証~

2025年8月21日『Science』誌に論文掲載およびプレスリリース

2025.08.22

スピントロニクスの発展により、強磁性体を用いた不揮発性メモリー(磁気抵抗メモリー:MRAM)の社会実装が進展し、半導体集積回路の高機能化・省エネ化に貢献しています。一方で近年、基礎研究の領域では、全体としては磁力を持たない磁性材料である反強磁性体が注目されています。これまでこの反強磁性体の強磁性体との類似点や相違点が様々な角度から調べられてきましたが、強磁性体に対する工学的な優位性は明らかではありませんでした。
 
このたび東北大学、物質・材料研究機構及び日本原子力研究開発機構からなる研究チームは、スピンが渦巻状に並んだカイラル反強磁性体Mn3Snを用いて、半導体応用で重視される動作速度に関して、反強磁性体の強磁性体に対する優位性を実証しました。具体的には、Mn3Snをナノメートルサイズに微細化することで、反強磁性体特有の現象である「電流印加によるスピン構造のコヒーレント回転」を超高速で自在に制御できることを明らかにし、その上で高効率な書き込み動作を0.1ナノ秒という強磁性体を凌駕する時間スケールで実現しました。
この制御方式は外部からの磁場を必要とせず、再現性にも優れることから、「スピン半導体」の大幅な機能向上に繋がるものと期待されます。
 
今回の研究成果は、2025年8月21日(米国時間)付で科学誌Scienceに掲載されました。研究チームには学際科学フロンティア研究所の山根結太准教授が責任著者として参加しています。
 

図:(a) カイラル反強磁性体ナノドット素子の高速制御実験の模式図。(b) 今回作製したナノドット素子の観察画像。

【論文情報】
タイトル:“Electrical coherent driving of chiral antiferromagnet” (カイラル反強磁性体の電気的コヒーレント駆動)
著者: Yutaro Takeuchi*, Yuma Sato, Yuta Yamane*, Ju-Young Yoon, Yukinori Kanno, Tomohiro Uchimura, K. Vihanga De Zoysa, Jiahao Han, Shun Kanai, Jun’ichi Ieda, Hideo Ohno, and Shunsuke Fukami*
*責任著者:物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究センター 研究員竹内祐太朗、東北大学 学際科学フロンティア研究所 准教授 山根結太、同学電気通信研究所 教授 深見俊輔
掲載誌:Science
DOI:10.1126/science.ado1611
URL: http://www.science.org/doi/10.1126/science.ado1611
 
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