東北大学
学際科学フロンティア研究所

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電力制御の小さな横綱「パワースピントロニクス素子」の開発に道 —電源回路の小型化とノイズ除去の切り札「負のインダクタンス」の活用に期待—

2021年3月4日『Physical Review B』論文掲載およびプレスリリース

2021.03.05

新領域創成研究部 (電気通信研究所兼務)山根結太助教は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター スピン-エネルギー変換材料科学研究グループ 家田淳一研究主幹(東北大学電気通信研究所客員教授兼任)と共同で、電子回路の基本的な性質「インダクタンス」を電子スピンの特性を活用することにより広範囲に制御する新しい方法を見出しました。
インダクタンスとは、導線を流れる電流の変化が誘導起電力となって現れる性質です。インダクタンスを得るためのねじれた導線(コイル)からなる素子をインダクタといい、電流の急激な変化をバネのように安定化することから、電源回路や高周波フィルタ、変圧器等のパワーエレクトロニクス素子(電力制御用半導体素子)に幅広く利用されています。古典電磁気学によると、誘導起電力の大きさは、コイルの巻き数の2乗とコイルの断面積に比例するため、強いインダクタンスを得るためには素子のサイズが自ずと大きくなります。すなわち、小型で強いパワーエレクトロニクス素子の実現には原理的な制限が存在しています。ごく最近、量子技術に基づく新しいインダクタの実現方法である「創発インダクタ」が提案され、従来技術の原理的な制限を克服する試みがはじまりました。しかし、この新しい実現方法には未だ謎が多く、観測された実験結果と基礎理論の間には未解明のギャップがありました。
そこで本研究では、スピントロニクスにおける重要因子の一つとして知られる「ラシュバ型のスピン軌道結合」の効果を基礎理論に取り込むことで、創発インダクタに与える影響を探りました。その結果、第一にラシュバスピン軌道結合がインダクタンスを飛躍的に増幅すること、第二に磁気の感じる摩擦の効果を通じてインダクタンスの符号を正負どちらにも設計できることを突き止めました。これらにより、未解明だった観測結果の理解を大きく進展させ、創発インダクタを最適化するための設計指針を与えることに成功しました。また、負のインダクタンスを持つ素子は、通常の正のインダクタンスを持つ素子とは逆の作用を持ちます。従って、負のインダクタンスには回路に生じた不要な(正の)インダクタンス由来の電磁ノイズを打ち消す効果があり、高周波回路等への応用が長らく提唱されていたものの、従来の単一素子では実現不可能とされていました。この点でも、本研究による負のインダクタンス発現の新原理発見が果たす意義は大きいと考えられます。
本研究は、スピンを介したエネルギー変換技術の利用により、従来技術では実現が困難であった集積回路等の極微領域での電源回路や負のインダクタといった魅力的な機能を実現させる「パワースピントロニクス」の開発を切り拓くものです。今後さらに研究を進めることにより、情報集約型の未来社会(Society5.0)を支える基盤量子技術の一環として、幅広く利活用されるようになることが期待されます。
 
本研究成果は、米国物理学会誌「Physical Review B」のLetterとして出版に先立ち、Editors’ Suggestionに採択されるとともに3月4日(現地時間)にオンライン掲載され、同日に日本原子力研究開発機構および本学よりプレスリリースされました。
 
論文情報:
Jun’ichi Ieda, and Yuta Yamane,
"Intrinsic and extrinsic tunability of Rashba spin-orbit coupled emergent inductors",
Physical Review B.
DOI: 10.1103/PhysRevB.103.L100402
https://journals.aps.org/prb/abstract/10.1103/PhysRevB.103.L100402
 
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