東北大学
学際科学フロンティア研究所

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「上皮組織の動的恒常性維持と環境応答の仕組みの研究」

2021.04.07

中嶋悠一朗(先端学際基幹研究部)

「上皮組織の動的恒常性維持と環境応答の仕組みの研究」

令和3年度 文部科学大臣表彰若手科学者賞


体の内外を覆う上皮組織は、ヒトを含む多細胞生物の体をつくり、維持していく上で必須の組織です。その一方、がんの約80%は上皮由来であるように、上皮組織の破綻は様々な病態につながります。上皮組織は環境因子の暴露や傷害を受ける可能性も高く、損傷に対する修復機能や不要な細胞を排除するといった「恒常性を維持する」仕組みを備えていますが、内外の摂動に応答するメカニズムには不明な点が多くあります。
 
中嶋悠一朗助教は、上皮組織において普遍的に観察される「上皮と平行な細胞分裂方向」に着目した研究を展開して、生体内上皮において「細胞分裂方向を制御する分子メカニズム」と「細胞分裂方向の生理的意義」の解明に取り組みました。遺伝学的ツールが豊富でシンプルな上皮構造をもつショウジョウバエをモデルに使い、ライブイメージング解析を組み合わせることで、アクチン細胞骨格を介した分裂期球形化やがん抑制因子であるScribとDlgが細胞分裂方向を制御することを明らかにしました。また、正常な細胞分裂方向の制御が上皮構造の維持に必要であること、細胞分裂方向の異常は上皮間葉転換を介した腫瘍形成につながることを示し、細胞分裂方向の制御による動的な恒常性維持メカニズムの存在を明らかにしました。

さらに中嶋助教は、刺胞動物のエダアシクラゲを新しい研究モデルとして取り入れ、細胞生物学的な研究基盤を確立してきました。二胚葉性のエダアシクラゲは、栄養や温度といった環境因子や傷害に対して鋭敏に応答します。上皮組織は多細胞体制の始まりとともに出現し、刺胞動物などの原始後生動物にも共通することから、エダアシクラゲの環境応答メカニズムを明らかにすることで、複雑な高等動物にも共通する原理を理解できる可能性が期待されます。
 
略歴:
1982年 愛知県岡崎市生まれ
2011年3月 東京大学大学院薬学系研究科統合薬学専攻修了 博士(薬学)
2011年4月−2011年5月 東京大学薬学系研究科・特任研究員
2011年5月−2016年3月 米国ストワーズ医学研究所・博士研究員
(2014年4月-2016年3月 同・JSPS海外学振特別研究員)
2016年4月−現在 現職
 
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