<修士卒で十分か、博士号をとるか>
10年ほど大学院生を指導してきて、自分の中で考えがまとまってきたので、それをここに記します。大学や海外で活躍したい場合
言うまでもなく、大学で研究職を目指す場合、博士号の取得は必須です。
また、東北大学の博士号は、欧米において「自国の大学の博士号と同等」と評価されており、学術ビザや就労ビザの取得の助けになります。海外の大学や企業で働くことを希望する場合も、博士号をとることを強く勧めます。この場合は最初から海外の院進というのもアリです(方法を知りたければ相談してください)。
日本企業で活躍したい場合
理学部生物学科卒の場合は、「修士卒は中途半端。学部卒か、博士卒か、2択で考えた方が良い」と考えています。したがって、大学院に進学するからには博士号を取得することを強く勧めます。
もともと私自身、理系で企業に就職するなら修士卒で十分だと考えていました。しかし、これまでの卒業生たちの就職活動の様子を見て考えが変わり、 現在では、特に理学部生物学科のような基礎研究に近い分野で学んだ場合は、「修士で就活するよりは、博士課程まで進学して身につけたことを論文などの形にしてから就活した方が、君たちの高い能力を生かせるような企業に就職できる」と自信を持って言えます。(現実にそうだったため)
また、現在の東北大学は卓越大学院などのプログラムが充実しており、博士課程の学生は、真剣に学業に取り組んでいる限りは、100%経済的支援が受けられています。
学生の企業への就活を見てきた率直な感想
修士課程の就職活動は、入学直後に始まってしまい、その時点で身についている力は学部卒と大差ありません。
学部卒で就職活動をする場合、大学で学んだ内容よりは、人柄、人物像などに依存したポテンシャル採用になるため、どこの学部でも大きな差がつかないように見えます。 ただし、東北大学理学部の場合は、ほぼ全員が修士課程に進むため「周りに流されないで就活の準備をする強い意志」が必要です。
修士課程在学中に就活する場合、学部卒よりは「具体的に何ができるのか」を評価される傾向が強まります。薬学部、農学部、工学部のように「企業と共同研究をしている」「何かを作れる、設計できる」「Pythonのコードが書ける」といった実学に近い分野であれば、 「それはうちの会社の仕事に使えそうだね」と評価される具体的なスキルがある上でのポテンシャル採用になります。
一方で、基礎研究志向の理学部生物学科卒の場合は、修士課程の時点では企業が評価するための「手がかり」が少なくなってしまいます。修士で就職活動しても「学生たちが優秀な割に思ったよりも苦戦している」ように見えます。
しかし博士課程まで進み、研究を通じて一仕事成し遂げて論文などの形にすれば身についている専門知識とスキルが可視化されるので、企業側が「自社が計画中の業務に活かせそうだから来てほしい」という評価をしやすくなっているようです。 さらに、プロジェクトを論文としてまとめた実績や、国際共同研究を通じて外国人とやり取りした経験など、評価される手がかりは格段に増えます。
書き切れないことや例外もあるので、個別に相談してくれれば他にも話せることがありそうです。